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スペインの移植コーディネーター(Transplant Coordinator, T.C.)
てるてる 2000年12月29日、2001年1月4日改訂
以下に紹介するのは、スペインの移植コーディネーター(Transplant CoordinatorT.C.)の制度である。スペインの移植コーディネーター(T.C.)は、提供臓器獲得数増加を目的として、徹底した訓練と賞与のシステムを持っている。T.C.は、1989年に設立された国立移植機関The Organizacion Nacional de Trasplantes (ONT)によって身分を保証されており、ほとんどが医者で、医療社会で高い尊敬を受けている。T.C.は継続した教育と訓練とを受けねばならず、そのために、移植医療のあらゆる側面をカバーする特別のコースを組んでいる。T.C.の活動の成果は、移植用臓器の不足に悩む国々の注目するところで、幾つかの国でくわしく紹介されている。ここでは、1998年のデンマークの倫理委員会発行のレポート、"Organ donation. Informed or presumed consent?"で紹介された、スペインの臓器提供者獲得モデルと、1999年にキプロスの健康大臣に提出されたレポートの付属資料"ORGAN DONATION - THE "SPANISH MODEL"から、そのなかの抜粋を訳して紹介する。
(1)スペインの臓器提供者獲得モデル(The Spanish organ donor
procurement model)
(デンマークの倫理委員会発行のレポート、Organ
donation. Informed or presumed consent?
http://www.etiskraad.dk/publikationer/orgdon_eng/ren.htm
より)
スペインでは1989年以来、年間の臓器移植の件数が増加している。1996年には、腎臓移植の
件数が世界中で一番多かった。100万人あたり43.8件、あったのである。スペインのある研究
者によると、公式に述べられている臓器提供の増加数は、国立の臓器移植の機関、ONTの設立
に負っているとのことで、この組織の主な目的は提供臓器の獲得の改善である。国立の臓器移
植機関は、この目的の達成に数々の主導性を発揮している。
第一に、包括的、組織的な方法が取られた。国立の移植機関は、全国的な移植コーディネーシ
ョンシステムの首脳部としてマドリッドに置かれ、地域コーディネーターが17の地域のそれぞ
れに、そして、コーディネーターがすべての病院に一人ずつ置かれた。病院コーディネーター
は特に中心的な役割を果たす。彼らは、潜在的ドナーの家族に話し掛け、臓器提供の恩恵につ
いて説明する。彼らの成功は、臓器提供の承諾をしぶるのは4分の1以下であるという事実に
よって評価されるだろう。
「移植のための臓器提供 スペインモデル」("Organ
Donation for Transplantation. The Spanish
Model")という、ONT発行の本によると、ドネーションインタビューとよばれるもののさま
ざまな側面が検討されている。
1)インタビューの準備。病院のなかでその家族のためにプライベートな場所を確保し、
さまざまな家族メンバーの態度についての情報を得る。
2)できるだけ、脳死判定基準について、形式ばらないくだけた説明を家族に対して行う。
3)次に、実際的な、臓器提供についての質問を行う。その際、最初の試みの後、30分か45分
して再び試みるのがよいかどうかという見積もりも含めるべきである。
4)臓器提供に賛成する具体的な議論を特殊な組織的方法によって行う。まず、ドナー本人の利
益を強調するべきである(たとえばドナーの寛大な人柄とか)。つぎに、仲間への配慮の重要性
に触れる(たとえば仲間への連帯を鼓舞するとか)。最後に、最終局面として、社会の利益を強
調するべきである(たとえば待機患者のリストとか臓器への社会的な需要とか)。
さらに、家族が臓器提供を拒否できる10の理由を追加するが、これは、この拒否を臓器提供賛
成に変える戦略的陳述と結び付けておく。(Cf.
particularly pages 93-111 of "Organ Donation for
Transplantation. The Spanish Model", Organizaci?n
Nacional de Trasplantes, 1996.)
一方、経済的な牽引力も臓器提供の件数を押し上げている。すべてのコーディネーターはこの
仕事で報酬を得ている。全国的および地域レベルではフルタイムでコーディネーターに雇われ
る。病院コーディネーターは、病院の仕事と臓器移植の仕事とを持っているので、潜在的ドナ
ーの死体が上がったときだけ、パートタイムで雇われる。病院コーディネーターは、ふだんの
給料の一番多い額でボーナスを受け取る。ボーナスの額は、病院コーディネーターが供給する
臓器の数によって左右される。獲得数が15より少なければボーナスも少なく、15より多けれ
ばボーナスも多い。加えて、国の健康システムは、提供臓器一個につき賞与を払う、それは、
臓器提供に係わった医療スタッフの人数に応じて配分される。賞与の額は、獲得された臓器の
タイプによって左右される。
なお、デンマークの倫理委員会は、スペインのT.C.のような、提供臓器の数に応じてボーナスが支払われる制度に否定的な見解を述べている。
「獲得された提供臓器の数に応じて医療スタッフに報酬を払うなどということは、倫理的にほ
とんど受け容れがたい。臓器を獲得するために、医療スタッフにこのような経済的刺激を与え
るべきではない、なんとなれば患者の最近親者が臓器提供について非指示的なインフォームト
コンセントを与えられるかどうかについて重大な疑いが生じるからである。」(デンマーク倫理
委員会の見解より)
(2)臓器提供─「スペインモデル」
(キプロスの健康大臣に1999年に提出されたレポートA
Report on Organ & Tissue Donation
http://cyprus-freemasons.org/RegMethods.html
より)
THE PROFESSIONALS SAY THAT THE TWO MAJOR
CAUSES OF ORGAN
DONOR SHORTAGES ARE:
(専門家は臓器提供者が不足するのは二つの主な理由があると言っている)
1.移植コーディネーターおよび/または医師は、近親者から臓器の摘出の承諾を取るときに成功
する率が低い(乏しいコミュニケーションスキル)ために潜在的ドナーを失っている。
2. 病院は、すべての患者の死が臓器提供に適合(または不適合)するかどうかを確認するため
の調査をいやがるために、潜在的臓器提供者を見逃している。
ORGAN DONATION - THE "SPANISH MODEL"
As introduced by it's Architect,
Dr Rafael Matesanz, MD, Coordiador
Nacional de Trasplantes, Spain:
「死体臓器提供者の不足が広がっているために、臓器移植の十全な発達が阻まれている」
これは完全にあらゆる医学記事または会議の挨拶の切り出しの文句になっており、おそらく誰もが異論なく賛成する。1990年以来ほとんどの国で、移植の件数は横這いかあるいは下降を続けている。実際、現実的な需要を満たす臓器の供給が徹底的な不足に落ち込んだために、多くの人が死んでいる。実際に臓器を受領できる人々の2倍から3倍の人々が移植を待っている。
しかしながら、移植関係者の集団はこの本質的な問題にほとんど注意を払わない。たとえば、1992年8月にパリで開催された国際移植学会の会議では、「臓器の獲得と分配」に関連のあるやりとりはわずか2%で、他の学問的な会合でも状況は同じようなものである。
そのうえ、何人かの専門家は臓器提供について語るとき、死者の家族の自発的な申し出の結果あるいは推定同意の法律またはドナーカードのシステムの帰結に過ぎないとみなしているように見える。
このような牧歌的で善意に満ちた感想は、メディアの否定的な報道と社会に広まった移植への誤解への不平を伴っている。専門家たちによれば、これは全般的な臓器提供率を押し下げる効果をもたらしている。このような「古典的な」考えに従えば、経費のかかる公報キャンペーンやドナーカードの普及が臓器提供をふやし、それによって、移植の恩恵を必ずやより多くの人にもたらす最善の方法だということになる。
このようなかたよった方法が生み出した戦略は、不運にもかなり弱く不充分であることがわかった。この状況はUSAの「臓器提供協同組合」(The Partnership for Organ Donation)によって完全に把握された。この機関は、おもに獲得された潜在的ドナーと獲得されるべき潜在的ドナーとのギャップを扱い、臓器提供をふやすための要素を分析する。
この機関は、特に次の点を強調している。
*臓器不足は世界的問題である。
*法的な方法(推定同意法)はオーストリアのような特定の国においてのみ効果がある。他の国では、予測できない結果へと導き潜在的に危険をもたらす可能性がある。
*一般大衆に向けた教育的キャンペーンは、経費対効果が非常に高くなり、その成果は疑わしく、結果が出るのは遅い。
*遺族に提供の意思を問う責任の重荷が医療専門職にのしかかるのだが、彼らのほとんどはこの困難でデリケートな仕事のための特殊な訓練を受けていない。ここに、断然、臓器提供をふやすための努力を集中するべきターゲットグループがある。
これは1989年の国立移植機関(National Transplant Organisation, O.N.T.)の創立以来の「スペインモデル」の哲学であった。ONTは、公式のかつ融通の利く運営組織を発達させて、国および地域の人々を移植コーディネーター(transplant coordinator, T.C.) に任命し、「草の根」で働く人々が臓器提供数増加達成の意識を持って実行の責任に巻き込まれるようにした。T.C.は、医師で、おもに腎臓科医師あるいは集中治療医で、それゆえ医療職集団で高い尊敬と認知を得ている。
現在、「草の根」T.C.は、すべての潜在的ドナーのいる病院に常駐し、パートタイムでコーディネーターの仕事をする。T.C.の役割とは、臓器提供を促進し可能にすることで、病院で働く人々を助けて、ドナーを確定し、維持し、遺族に臓器提供の要請をすることをマネジメントすることである。T.C.はまた、臓器摘出のアシスタントとコーディネーターの仕事もする。このような責任を与えられには、最適のマネジメントとコミュニケーションの技術が必要不可欠である。ONTは、T.C.のための継続した教育と訓練の必要性を強調する。移植医療のあらゆる側面をカバーするように企画された特別のコースを創り出し、移植のときよりもむしろ提供のときにT.C.が座を占めるようにするという、責任がある。支援のシステムがあることによって、情熱と動機を強く意識し、臓器提供の全局面で水準を上げるに到っている。ONTと厚生省(Spanish Department of Health)との直接の結びつきは、移植活動に関するあらゆる問題と主題について、厚生省幹部(Health Authorities)への情報の流れを促進する。
そのうえ、ONTは、サーヴィス機関として、幾つかの選ばれた社会的団体との緊密な関係を保っている。24時間1週間まるまる休みなしで、ドナー、臓器の獲得と摘出に関する質問に答える電話サービスを行なっている。このサーヴィスは、一般大衆、医療職、そして特にジャーナリストに対して特別に行われている。
積極的な情報政策は、肯定的なニュースを生み出すことによって、移植に関するあらゆる矛盾のすみやかで確実な説明を根づかせ、かつ、T.C.およびそのほかの医療専門職のための特別で相互的なコミュニケーションの訓練のコースをしくことによって、この数年間でスペインでの臓器提供に非常に肯定的な空気をもたらすことに成功した。
この統合された方法は、臓器提供者の割合を、1989年の百万人あたり 14.3人から1993年の百万人あたり22.6人へと確実にふやした。カナリヤ諸島では38.6人, アストリア、ガリシア、バスクでも30人を越えた。全臓器摘出数は、同じ期間に90%増加した。
これは、スペインはこの3年間でEUのなかでも交通事故の死者を最も大きく減少させたという事実があるにもかかわらず達成された。1993年には、ほとんどの地域において、臓器提供に占める交通事故の割合はたった30%だと言われている。
スペインの臓器獲得の割合は、おもに、訓練されていないあるいはまずく訓練された要請スタッフや、確定されないドナーや、悲しんでいる家族への接近をいやがること、などの障害を克服するという努力の結果である。これは、次のことを意味する:臓器提供に関連のある課題の専門化とこれらすべての活動の促進と増進に集中する組織の必要である。
スペインの経験が他の国にそのまま適用できるかどうかはわからない。しかし少なくとも、その総合的な方法は考慮に値する。脳死患者、潜在的ドナーは集中治療室に折り、自宅にいるのではない。医師と看護婦は正しく彼らを確定し、現実のドナーに変えるために最善を尽くさなければならない。
われわれは正しい方法をとっていると信じる。1994年の前半の5ヶ月間で、臓器提供を24%増加させた。われわれはさらにこの数字を延ばすためにはたらかなければならない。
Rafael Matesanz
Medical Director
National Transplant Organisation (O.N.T.) - Spain.
注:ONTは1994年に百万人あたり25人のドナーを獲得し、1995年6月までに平均して百万人あたり27人のドナーを獲得した。
FROM THE ARCHIVES OF THE PARTNERSHIP FOR ORGAN DONATION
Reference: The Partnership's "Joining Forces" seminar in 1995:
参照:The Partnership's "Joining Forces" seminar in 1995:
引用:「スペインは、臓器提供の割合が世界最少から最多へ、百万人あたり14人から25人へと上昇した。この増加は、ドネーションプロセスの実施の権限を院内ドネーションチームに集中させるという、標準的なドネーションプロセスが、世界的に実施されることへとつながった。病院は臓器提供に責任を負っている。ヨーロッパの他の国では臓器提供の割合が横這いか低下を続けているときに、スペインでは臓器提供数の増加を達成し続けている。
スペインの臓器提供と移植の歴史は1965年に始まり、最初の移植は、マドリッドとバルセロナで行われた。1979年に法制化が通り、臓器提供と移植を広めることができた。1980年代中頃まで、徐々に増加し、そこで停滞した。
1989年に、国立移植機関(National Transplant Organisation, O.N.T.)が、低下する臓器提供の割合の問題を改善するという目的で結成された。この機関は、問題は適合する臓器の不足ではなく、むしろ、潜在的ドナーの確定と同意の獲得にあると信じた。
Blanca Miranda医学博士は、ONTの副主席で、スペインでのJoining Forcesのプログラムについて語った。以下は、会議の後の、ミランダ博士へのインタビューの抜粋である。」
問い:スペインの移植の割合が高い主な理由は何か?
答え:われわれは国中のすべてのそして一つ一つの病院で、標準化されたドネーションプロセ
スを実行した。われわれのシステムでは、ドネーションプロセスを扱う責任を、ドネーション
チームと呼ばれる、特別に訓練された人々に集中させた。このドネーションチームがそれぞれ
の病院で臓器提供の実行に責任を持つ。
問い:なぜその院内チームはそううまく働くのか?
答え:そのチームが、ドネーションプロセスを統括し責任を負うのにふさわしい人々で構成さ
れていることが最も重要である。チームに選ばれた人々はICUで働く医師または看護婦で、彼
らの働く病院で非常に尊敬され、彼らの現在の責務に加えてパートタイムの地位を進んで引き
受ける人々である。また、移植病院では、このチームは、移植チームから完全に独立して、院
長に報告を出さなければならない。これが臓器提供の実行に対する責任を保証するのである。
問い:院内チームの役割は何か?
答え:彼らは、すべてプロセスを統括する。彼らはすべての潜在的ドナーを確認し、ドナーの
評価とマネジメントを扱い、家族が死が起こったことを理解することを確実にし、臓器提供の
要請を行う。彼らはまた、患者教育、医療資源のマネジメント、メディア関係、そのほかの管
理運営の仕事をこなす。
問い:どんなときに潜在的ドナーの家族に接触するのが最もよいのか?
答え:われわれは、すべてのコーディネーターに、脳死が起こったことを家族が理解するより
前に、臓器提供の話をしてはならないと教育している。臓器への要求をする前に、コーディネ
ーターが家族との信頼関係を築くことが重要である。この信頼関係確保のために、コーディネ
ーターは非常に早く家族との関係に巻き込まれるようにする。実際、コーディネーターは、重
大な脳の傷害を負った患者が出るとすべて通知される。
適確なタイミングというものは、家族ごとによって異なる。コーディネーターが最初に家族に
会ったときにすることは、家族が状況を理解しているかどうかを把握することである。プロセ
スのワンステップごとに、現在の状況を吟味し、医師によって与えられる家族の情報をすべて
分析しなければならない。最後に、医師が、死が起こったことを説明し、家族が理解したこと
を、コーディネーターは確認しなければならない。
また、病院のなかに、何人の家族のメンバーがいて、そのうちの誰が最終決定者なのかも確定
しなければならない。スペインでは家族は非常に緊密で、病院では10人ぐらいが見つかるはず
である。コーディネーターは、その家族の最終決定者と話していることを確認しなければなら
ない。
問い:USAはスペインのシステムから何を学ぶことができるか?
答え:おそらく、完全なスペインのシステムを、USAに移しかえることはできない─バナナを
輸出するようなわけにはいかない─しかしわれわれはすべて他のシステムから学び変化を生み
出すことができる。私の見るところ、USAの最大の問題は、病院のなかに、臓器提供に全責任
を負う一人の人間がいないことである。多くの人がそのシステムにかかわり、だれも結果を報
告する必要がない。
病院は、チームを発展させるために時間をつぎこむ必要がある。臓器提供は病院内で行われる
他のあらゆる医療行為と同じく医療行為である。心臓病のチーム、神経学のチーム、などと同
じように、ドネーションチームもまた作るのである。
問い:あなたがたの次の改善の対象は何か?
答え:われわれはスペインの潜在的なドナーは百万人あたり50人ほどいると見積もっているが
現在は百万人あたり25人である。このギャップを埋めるためには改善すべき事柄が3点ある。
第一はドナーの確定である。われわれは、患者が潜在的ドナーとして確定されなかったために、
百万人あたり10人ほどドナーを失っていると見積もっている。第二の改善すべき領域はドナー
の医学的マネジメントである。われわれは現在ドナーのうち10%から14%を心臓麻痺、急激な
血行動態の不安定、制御できない敗血症で失っている。最後に、家族の拒否を減らす必要があ
る。われわれの拒否される割合は24%だが、この数字はさらに訓練を重ねることによって小さ
くできると信じている。
(以上)
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