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臓器移植法改正案への対案 Ver.8
てるてる著
2000年3月4日発表・12日改訂・4月7日3版・18日4版・21日5版・5月6日6版・24日・6月20日8版



臓器移植法の改正案(町野案)への対案 (2000.06.20)

まず、現行の臓器移植法について確認する。

現行のドナーカード(臓器提供意思表示カード)では、以下のように記載されている。

該当する1.2.3.の番号を○で囲んだ上で提供したい臓器を○で囲んで下さい

1.私は、脳死の判定に従い、脳死後、移植の為に○で囲んだ臓器を提供します。
 心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸・その他(  )

2.私は、心臓が停止した後、移植の為に○で囲んだ臓器を提供します。
 腎臓・眼球(角膜)・膵臓・その他(  )

3.私は、臓器を提供しません。

署名年月日
本人署名(自筆)
家族署名(自筆)
(可能であれば、この意思表示カードをもっていることを知っている家族が、そのことの
確認のために署名して下さい)

連絡先:日本臓器移植ネットワーク
 

現行の臓器移植法では、以下の場合は臓器を摘出しないことになっている。

  ドナーカードを持っていない→臓器を摘出しない
  ドナーカードを持っているが、何も記入していない→臓器を摘出しない
  ドナーカードを持っていて、臓器提供をしないと記入している→臓器を摘出しない
  ドナーカードを持っていて、臓器提供をするという意思表示をしているが、
  家族が同意しない→臓器を摘出しない
  ドナーカードを持っている人が15歳未満である。→臓器を摘出しない
 

現行の臓器移植法に対して、以下の改正案が浮上している。
(1) 脳死になった本人がドナーカードをもっていなくても、家族の同意があれば移植
   できるようにする
(2) 親の同意があれば、15歳未満の脳死の子どもからも移植ができるようにする
 

上記の改正案は、本人の意思を確認せず、家族の同意だけで臓器を提供できる
としているので、私は反対である。

かわりに、次の案を提案する。
(1)脳死になった本人が成人である場合、臓器を提供する意思を表示し、
  脳死と心臓死との違いについて理解していることが確認されたら、
  家族の同意がなくても臓器を提供できる。
(2)脳死になった本人が未成年である場合、臓器を提供する意思を表示し、
  脳死と心臓死との違いについて理解していることが確認され、さらに、
  家族の同意があれば、臓器を提供できる。
(3)子供用のドナーカード(臓器提供意思表示カード)を作る。
 

この提案のポイントは、本人の意思の確認に加えて、
脳死と心臓死との違いについて理解しているかどうかを確認すること、
家族の同意を臓器提供の条件にするかどうかを成人と未成年とで分けたということ、
そして、15歳以下の子供の臓器提供も認めることである。
以下に、提案の内容を詳述する。
 
 

提案

臓器移植法のなかで改正の対象とされている部分
 問題とされているのは、現行の臓器移植法(1997年施行の「臓器の移植に関する法律」)
 の第六条である。

 「臓器の移植に関する法律」
  第六条(臓器の摘出)
    医師は、死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を
    書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の
    摘出を拒まないとき又は遺族がないときは、この法律に基づき、
    移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)
    から摘出することができる。
 
    2
    前項に規定する「脳死した者の身体」とは、その身体から移植術に使用されるた
    めの臓器が摘出されることとなる者であって脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に
    停止するに至ったと判定されたものの身体をいう。
 
    3
    臓器の摘出に係る前項の判定は、当該者が第一項に規定する意思の表示に併せて
    前項による判定に従う意思を書面により表示している場合であって、
    その旨の告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき
    又は家族がないときに限り、行うことができる。

 問題の提起は、移植医療を望む人々の団体からの要望書と、厚生省の研究班の町野氏
 からの改正案とで、行われている。
 
 移植医療を望む人々からの要望
  「トリオ・ジャパン」の2000年3月1日の要望書
    1. 法律の見直し
     「二つの死」が存在しない法律に改める。
      脳死下における臓器提供要件を拡大し、
      本人が反対の意思を書面により表示していないときは、
      家族の承諾により提供できるものとする。

  日本移植者協議会の2000年2月28日の要望書
    1.
      6歳未満の脳死判定基準の策定を含め、
      15歳未満の脳死臓器提供を可能にしてください。
 

 厚生省の研究班のメンバーから提示された改正案(町野案)
  町野朔氏が、「『小児臓器移植』に向けての法改正」として、「二つの方向」を例示
  されている。「二つの方向」とは、次のA, B案である。

   A案
   小児・年少者からの臓器の摘出を可能にするために、
   誰かが彼(彼女)に代わって臓器提供を承諾する意思を表示することを認める
   特則を設ける。

   B案
   死者本人の臓器提供に承諾する意思表示がなければ許されないとする
   現行法の立場を修正することによって、
   子どもにも大人にも平等に移植医療を可能とする。

 町野氏は、A案を便宜主義的法改正として批判する。
 その理由は、A案の場合、小児に代わって臓器の提供に同意する人としては、その
 親権者が考えられる。しかし、親権者が子供の代わりに臓器提供を承諾する意思を
 表示するのは、民法(820 条)の認める「子の監護及び教育」という、親権者の
 権利・義務には含まれない、というものである。
 そこで、町野氏はB案を選択し、現行法を次のように改正することを提案される。

   第6 条?  医師は、死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供
         する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた
         遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき、若しくは遺族がいないとき、又は
         死亡した者が当該意思がないことを表示している場合以外の場合であって、
         遺族が臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示し
         たときには、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死体を含む。
         以下同じ。)から摘出することができる。

 現行の臓器移植法と町野案との違いは、臓器摘出の要件を、現行法では、
  「死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面に
    より表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出
    を拒まないとき又は遺族がないとき」
 としているのに加えて、
  「死亡した者が当該意思がないことを表示している場合以外の場合であって、遺
    族が臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示したとき」
 も臓器を摘出できるとしたこと、
 および、現行法の
  「死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出する」
 という表現を、町野案では、
  「死体(脳死体を含む。以下同じ。)から摘出する」
 に変えたことである。

 この変更内容は、町野氏自身も述べられている通り、現行の臓器移植法の採決の前、
 1994年に国会に提出された「旧中山案」に戻したものである。
 「旧中山案」の内容は、これもまた町野氏も言及されている、1979年施行の「角腎
 法」こと「角膜及び腎臓の移植に関する法律」に近く、それをほとんどそのまま、
 角膜・腎臓以外の臓器の移植にも拡大適用したものである。
 すなわち、「角腎法」では、以下のように規定されている。

   角膜及び腎(じん)臓の移植に関する法律(1979/12/18法律第63号)
   第三条
  (3)医師は、第一項又は前項の規定による死体からの眼球又は腎臓の摘出を
        しようとするときは、あらかじめ、
        その遺族の書面による承諾を受けなければならない。
        ただし、死亡した者が生存中にその眼球又は腎臓の摘出について
        書面による承諾をしており、かつ、医師がその旨を遺族に告知し、
        遺族がその摘出を拒まないとき、又は遺族がないときは、この限りでない。

 この「角腎法」では、心臓死後の移植だけを対象としている。
 それに対して、1997年施行の、現行の臓器移植法では、心臓死後・脳死後両方の
 移植を対象としている。
 町野氏によると、この、現行の臓器移植法は「脳死・臓器移植法」であり、
「脳死を他の死(心臓死)に対してこれほどまで相対化したことは、
  法的レトリックを超えた重大な倫理的問題を生じさせたことは疑いない。」
 として、現行法の第六条の2 項・3 項を批判する。以下、町野氏によると、

     現行法は、移植用臓器摘出のときだけに限って脳死を人の死であることを認
     めるような文言を用い、本人が脳死判定に承諾し「家族」がそれを拒まない
     ときにだけ脳死判定をなしうるとしている(6 条)。
     さらに、「脳死した者の身体以外から」眼球・腎臓を摘出するときには、当分
     の間遺族の承諾だけで足りるとしている(附則4 条1 項)。
     臓器移植が法的に許されるときには脳死が人の死となりえ、法の手続に従っ
     た脳死判定がなされたときだけ、いわゆる「法的脳死判定」がなされたとき
     だけ脳死が存在するかのような現行法は、臓器移植の目的の存在によって
     脳死を人の死としてしまったのである。
     医療の現場では、「法的脳死判定」でない「臨床的脳死判定」がなされたとき
     には脳死が存在しないのか、移植の許されるとき、移植を目的としないとき
     には脳死判定してはいけないのか、法的脳死判定の要件を満たさないときには
     脳死はないのか、などという疑問が噴出しているのである。

 このような問題意識による改正案は、「トリオ・ジャパン」の要望書における、
 「法律の見直し」の内容にも添うものである。

    「二つの死」が存在しない法律に改める。
   脳死下における臓器提供要件を拡大し、
     本人が反対の意思を書面により表示していないときは、
     家族の承諾により提供できるものとする。

 これは、脳死を心臓死と同様に扱い、角腎法と同様の要件を脳死後の臓器移植に
 適用する、ということと同じである。

 以上が、現行法に対する批判と改正の対象となっている条項の要点である。
 これらの要望書と改正案の目的は、小児臓器移植を可能にすることにある。

 なお、町野氏は、現行法の改正もしくは検討を要する点として、次の点も挙げられ
 ている。

    現行法は、死体からの臓器の摘出・移植だけを規定し、生体からの臓器の
    移植、 例えば腎臓、肝臓、肺などの「生体移植」については規定していな
    いが、法律で厳格に規定する必要はないのか。

 さらに、
     現行法は、心臓、肺、肝臓、腎臓、厚生省令で定める内臓[膵臓及び小腸と
     されている。規則1 条]及び眼球」だけを法が規定する「臓器」としている
    (5 条)が、臓器一般、さらには組織まで含めた立法にすべきではないか。

 この2点の問題提起については、両方とも法律による規定に同意する。
 
 

町野案への対案の立場
 町野氏は、改正案のなかで、
「脳死が人の死であるといえないのなら、むしろ心臓移植は行うべきではないので
  ある。」
 と述べられている。

 まったく、同感である。

 しかし、町野氏は、臓器移植を行うための法の制定にかかわり、移植の対象を
 広げるための改正案も出されている。
 その事実を前にしては、臓器移植法を改正するのならば、少しでも、脳死を人
 の死と認められない立場の人の意見を反映させたものになってほしい、と望み、
 そのための対案を作ることも無駄ではないと考える。

 まず、脳死の人からの心臓などの移植があれば生き延びられる、それがなければ
 死んでしまう、という人々からの切実な訴えがある。外国まで移植手術を受けに
 行く人々がいる。移植用の臓器を取り出すことができるようにするために、他人
 が脳死したらそれを死と認めてほしい、と要望する人々がいる。海外では移植医
 療が定着しているのに、日本は移植後進国であると嘆く移植医もいる。

 そういう人々を前にして、
 事実として脳死を心臓死と同じような「死」と認める人のなかにも、あるいは、
 事実として脳死を心臓死と同じような「死」と認めることはできないという人の
 なかにも、移植を望む人々の気持ちには応えたい、だから、もし、自分が脳死状
 態になったら、臓器を提供してもいい、という人々が現われている。

 だから、脳死を「死」と認める人も、「死」と認めない人も、臓器を提供しよう
 という善意のある人がいるならば、その人々の善意を生かすことによって、少し
 でも、移植を必要とする人々の命を救おう、という考え方でも法案を作りうる。

 脳死を死と認められないし、臓器移植そのものに反対である、という人々も多い。
 これは自然であたりまえの感覚である。脳死も臓器移植も、移植医療が定着して
 いる国々であっても数十年の歴史しかなく、この医療が人々に及ぼす、社会的心
 理的精神的、そして、経済的影響の大きさや深さや広さなどは、まだ、現在進行
 中のできごととして、見極められていない。その意味では、医療技術としては進
 歩し定着していても、社会的にはまだ実験段階にあると言ってもよい。
 諸外国では移植医療のための法制度が定められ、かつ、改められ続けている。
 移植医療が定着すればするほど、臓器の需要が増して、供給が追いつかず、慢性
 的な臓器不足である。したがって、どこの国でも、より多くの臓器を提供させる
 ために、法改正を繰り返している。
 今後、日本も、移植医療のより一層の定着をめざすならば、そのような法改正を
 繰り返す事態になることも予想される。
 どうすれば、移植医療を望む人々の生存を保障しつつ、臓器を提供する立場とな
 る人々の、延命治療を受ける権利と終末期医療を受ける権利とを守り切れるか、
 そのための自己決定権を保障できるか、というのは、どこの国でも模索中であり、
 模範的な制度というものはどこの国にもない。

 このような状況認識の元に、一つの実験的な提案として、この対案を提示する。
 

脳死を人の死としない立場の堅持
 「脳死を人の死としないで『脳死した者の身体』からの移植用臓器の摘出を認める」
 という、違法阻却論に立脚しつつ、小児臓器移植を可能にする方策を考える。

 この違法阻却論は、1997年の臓器移植法制定前の国会審議に提出された「金田案」や、
 当時の日本弁護士連合会の提案で示されたものである。

 対案のなかの、小児移植についての項目は、町野氏が先に提示されたA案と部分的
 には重なるが、必ずしも一致しない。
 この対案では、さらに、移植される臓器の「人格権」もまた、主張する。
 

 脳死判定について
  町野氏の現行臓器移植法の第六条の2 項・3 項に対する批判のうち、「脳死」が
  移植を目的とするかどうかで、「死」になったりならなかったりするのは矛盾して
  いる、という批判には賛同する。
  現在では、移植を目的とした脳死判定と臨床的な脳死判定と二つの脳死判定がある。
  脳死判定そのものは、臓器移植とは関係なく、患者の予後の診断として以前から
  行われてきたものである。
  それについては、現行法のもとでも、本人の生前の書面による承諾も家族の承諾も
  必要としていない。
  それは、臨床的な脳死を、法的な「死」とはみなしていないからである。
  しかし、移植を目的とした脳死判定については、本人の生前の書面による承諾と本人
  の家族の承諾とを必要としている。それは、そこで法的な「死」を迎えたとみなす
  こととされているからである。
  町野氏は、この二重基準を批判され、臨床的な脳死も移植を目的とした脳死もともに
  法的な「死」とみなすことを提案している。
  しかし、臨床的な脳死も移植を目的とした脳死もともに法的な「死」とみなさない、
  という方向で一元化し、どちらの場合の判定も本人の生前の書面による承諾も家族の
  承諾も必要としない、という立場もありうる。この提案では後者の立場をとる。
 

脳死を「死」としないことについて(法的な死の定義)
  法的な「死」は、心臓死で統一する。
 

臓器移植と臓器提供者の生前同意
  臓器移植では、心臓停止後でも、脳死後でも、できるだけ早く臓器を摘出したほうが、
  移植手術の予後がよい。
  しかし、心臓停止も脳死判定も医師が診断を誤ることがある。

  「墓地、埋葬等に関する法律」では、死後、24時間以内に埋葬することを禁じている。

第三条 埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く外、死亡又は死産後
二十四時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない。但し、妊娠七箇月に
満たない死産のときは、この限りでない。

 「墓地、埋葬等に関する法律」は、1948年に制定され、最終改正が、1994年で、
  1997年施行の「臓器の移植に関する法律」の制定前に作られており、「脳死」ではなく、
  心臓死を前提としている。「脳死」者も、いずれは「心臓死」に到るので、「脳死」者が
  「心臓死」した後、24時間を経過した後でなければ、埋葬又は火葬を行ってはならない
  という意味に解釈できる。

 臓器移植を行わない場合は、脳死判定や心臓停止の診断に曖昧さが残っているとしても、
 心臓停止の診断後24時間の経過を見て、蘇生しないかどうか確認できる。
 しかし、臓器移植の場合は、そのような確認ができない。
 したがって、臓器移植では、心臓死後も、脳死後も、死の診断の曖昧さを、
 完全に払拭することができない。

 それゆえ、臓器提供は、
 臓器提供希望者が、生前に、
 移植医療に関する充分な情報を与えられ、変更の自由を保障され、
 かつ、いかなる経済的対価も伴わずに、
 自由意志と倫理的判断とに基づき、
 自発的な、任意の、
 書面による意思表示を行った場合にのみ、
 許されるべきである。

 なお、上記の、臓器提供の生前同意の際の条件は、生体間の臓器移植においても、
 厳守されるべきである。
 現行の臓器移植法には、生体間の臓器移植に関する規定がないので、新しく、
 規定する必要がある。
 

移植のために提供される臓器の人格権
 移植のために提供される臓器は、
 臓器提供希望者が、生前に、いかなる経済的対価も伴わずに、
 移植医療に関する知識と、自由意志と倫理的判断とに基づいて、
 提供したものであるから、
 臓器提供者の人格権を有している。

 したがって、移植手術を受けた人には、
 臓器を提供した人の氏名を知らせ、
 臓器提供者への礼意の表示を求めなければならない。
 移植手術を受けた人の氏名と礼意は、
 臓器提供者の意思に同意した遺族等に知らせなければならない。

 なお、生体間の臓器移植でも、当然、提供された臓器の人格権が保護されるべきである。
 

臓器提供者の死亡時刻
  脳死後および心臓停止後の臓器移植においては、
  臓器提供者の死亡時刻は、臓器の摘出が終わったときとするべきである。
 

脳死状態での終末期医療の選択
  脳死は、集中治療室(ICU)でのみ発生する。
  脳が融解し、最終的には、心臓停止に到る。
  しかし、脳死状態は、長期間、持続することが可能である。
  場合によっては、1ヶ月以上、持続することもある。
  脳死状態になった人が、心臓停止を迎えるには、次の二通りの方法がある。

    集中治療室(ICU)の中で心臓停止まで治療を行なう。
    集中治療室(ICU)の外の病室で心臓停止まで治療を行なう。

  「集中治療室(ICU)の中で心臓停止まで治療を行なう」には、更に、次の二通りがある。

    心臓停止まで人工呼吸器でのケアや薬剤の追加などを繰り返し継続する、
    「積極的治療」を行なう。
    新たな治療を追加せずに心臓停止まで同じケアを続ける、「消極的治療」を行なう。

  どちらにしても、集中治療室(ICU)では、医療スタッフ以外の、
  脳死状態の人を看取る人々が介護をする時間が制限される。

  「集中治療室(ICU)の外の病室で心臓停止まで治療を行なう」場合、
  心臓死を迎える時は必然的に早くなる。
  そのかわり、医療スタッフ以外の、脳死状態の人を看取る人々が介護をする時間は、
  制限されない。
  もっとも、いつ、集中治療室(ICU)の外に出るかは、医療スタッフと、
  脳死状態の人を看取る人々の、相談のうえで、決定される。

  さらに、もう一つ、

    集中治療室(ICU)から手術室へ移動して、移植のための臓器を摘出することによって、
    脳死状態を終える。

  という方法がある。

  移植のための臓器の摘出は、
  集中治療室での治療によって脳以外の生体の機能を長期間維持することが可能な
  患者に、積極的に完全に生命活動の停止をもたらす医療行為であるから、
  患者を手術室に移動する前に、現行の臓器移植法と厚生省令で規定されている、
  竹内基準(あるいは、今後、もっと厳密な判定方法が開発されれば、その方法)の
  脳死判定を行い、脳死を再度確認する必要がある。
 

 以上三つの方法、

    集中治療室(ICU)の中で心臓停止を迎える。(「積極的治療」または「消極的治療」)
    集中治療室(ICU)の外の病室で心臓停止を迎える。
    集中治療室(ICU)から手術室へ移動して、移植のための臓器を摘出することによって、
    脳死状態を終える。

 を、誰でも生前に自由に選択できるようにしておくことが必要である。
 

 妊娠中の人が、脳死状態になった場合、家族等の選択によらず、医師の判断で、

   集中治療室(ICU)の中で心臓停止を迎える。(「積極的治療」または「消極的治療」)

 を選択するべきである。
 なんとなれば、脳死状態で出産する女性がいるからである。

 もし、妊娠中に脳死状態になった人が、
 生前に、脳死後または心臓停止後の臓器提供の意思表示をしていた場合は、
 生前の意思に同意していた遺族等の許可を得て、心臓停止後に臓器を摘出してもよい。
 

 脳死後の臓器提供の意思を表示していた人が、自殺を図った場合は、
 脳死状態になっても、自殺未遂の状態と判断するべきである。
 そのため、脳死状態からの臓器の摘出は禁止するべきである。
 したがって、選択肢は、

   集中治療室(ICU)の中で心臓停止を迎える。(「積極的治療」または「消極的治療」)
   集中治療室(ICU)の外の病室で心臓停止を迎える。

 の二つのうちのどちらかを、脳死になった人を看取る人が選ぶ。
 しかし、自殺を図った人の生前の意思に同意していた遺族等の許可を得て、
 心臓停止後に臓器を摘出してもよい。

 心臓停止後の臓器提供の意思を表示していた人が、自殺を図った場合は、
 自殺を図った人の生前の意思に同意していた遺族等の許可を得て、
 心臓停止後に臓器を摘出してもよい。
 

 もし、脳死状態での終末期医療の三つの選択肢のうちのどれも選択せずに、
 脳死状態になった人がいれば、その人を看取る人々は、一番目と二番目の

   集中治療室(ICU)の中で心臓停止を迎える。(「積極的治療」または「消極的治療」)
   集中治療室(ICU)の外の病室で心臓停止を迎える。

 のうちのどちらかを選択することができる。
 しかし、

   集中治療室(ICU)から手術室へ移動して、
   臓器移植をすることによって、脳死状態を終える。

 を選択することはできない。

 もし、脳死状態になった人が、生前に、心臓死後の臓器提供の意思表示をしていれば、
 心臓停止後に臓器の摘出をすることができる。

 脳死状態での終末期医療における保険適用
  集中治療室(ICU)の中で心臓停止まで「積極的治療」または「消極的治療」を行う
  場合は、法律で、健康保険の適用対象となる期間を定めておき、
  その期間を過ぎたら、民間医療保険に移行することとする。
 

子供の終末期医療と臓器移植

 乳幼児の場合、生前に自分で脳死状態の終末期医療の選択をするのは不可能である。
 したがって、親等の保護者が選択せざるを得ないが、幼い人の延命治療を受ける権利
 と終末期医療を受ける権利とを守るために、親等の保護者の裁量権は、かなりの制限
 を必要とする。

 乳幼児が、脳死状態になった場合、親等の保護者の選択によらず、医師の判断で、

   集中治療室(ICU)の中で心臓停止を迎える。(「積極的治療」または「消極的治療」)

 を選択するべきである。

 また、乳幼児のための、
 脳死後の、集中治療室(ICU)の中での「積極的治療」または「消極的治療」には、
 全額、健康保険を適用すべきである。

 しかし、集中治療室(ICU)のなかで一ヶ月以上脳死状態を持続した後では、
 親等の保護者が、

   集中治療室(ICU)の外の病室で心臓停止を迎える。

 を選択してもよいと考える。

 原則として、脳死状態の乳幼児の終末期医療で、

   集中治療室(ICU)から手術室へ移動して、
   臓器移植をすることによって、脳死状態を終える。

 を選択してはならない。

 しかし、乳幼児のための臓器移植には、乳幼児からの臓器提供が必要とされている。

 乳幼児が、生前に自分で心臓停止後または脳死後の臓器提供について、同意または
 反対の意思を表示するのは不可能である。

 心臓停止後の臓器提供は、親等の保護者が承諾すれば、行なってもよいであろう。
 しかし、脳死後の臓器提供を、心臓停止後の臓器提供と同じように考えるわけには
 いかない。

 子供は、おとなよりも脳の障害に対する抵抗力が強く、おとなよりも長い期間に渡って、
 脳死状態が持続し、その間に成長することもあると言われている。
 脳死と判定された後、数ヶ月以上たってから、脳波が出現した事例もある。
 いずれは心臓停止に到るとしても、その前に、いつ、完全に脳死状態になったのかを
 判定するのは、おとなの場合以上に、むずかしい。
 また、妊婦が脳死状態で出産することもあるので、胎児などは母親が脳死してもなお、
 成長する力があると考えることもできる。
 このような例に照らすと、幼い子供はその存在そのものによって、臓器を提供せずに
 その本人のからだのままで生きようとする強い意志と生命力を持っていると思われる。

 しかし、そのような強い生命力は、移植を必要としている子供もまた、持っている。
 おとなよりもなお一層強く、移植された臓器を自らのものとして生き、成長する力が
 あるものと考えることもできる。
 だから、おとなと同じように移植治療を受ける機会を子供も享受する権利がある。

 それゆえ、子供から子供への臓器移植は、厳しい条件のもとで、許可される場合が
 あってもよい。
 しかし、子供から提供された臓器をおとなに移植することは、禁止するべきである。
 
 

 以上の前提に基づき、現行の臓器移植法に幾つかの変更を加えることを提案する。

 現行の臓器移植法(「臓器の移植に関する法律」、1997年)では、
 第一条「目的」で、この法律は、
 「臓器の移植術に使用されるための臓器」を「死体から摘出すること」について、
 「必要な事項を規定する」としている。

  (目的)
  第一条
      この法律は、臓器の移植についての基本的理念を定めるとともに、臓器の機能
      に障害がある者に対し臓器の機能の回復又は付与を目的として行なわれる臓器
      の移植術(以下単に「移植術」という。)に使用されるための臓器を
      死体から摘出すること、
      臓器売買等を禁止すること等につき必要な事項を規定することにより、
      移植医療の適正な実施に資することを目的とする。

 この条項の「死体から摘出すること」を、
 「心臓停止状態または脳死状態の身体から摘出すること、または、
   麻酔術を施された身体から摘出すること」
 に改める。

  (目的)
  第一条
      この法律は、臓器の移植についての基本的理念を定めるとともに、臓器の機能
      に障害がある者に対し臓器の機能の回復又は付与を目的として行なわれる臓器
      の移植術(以下単に「移植術」という。)に使用されるための臓器を
      心臓停止状態または脳死状態の身体から摘出すること、または、
      麻酔術を施された身体から摘出すること、
      臓器売買等を禁止すること等につき必要な事項を規定することにより、
      移植医療の適正な実施に資することを目的とする。
 

 現行の臓器移植法の第二条「基本的理念」では、「死亡した者が生存中に有していた」
「自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思」は、
「尊重されなければならない。」としている。

  (基本的理念)
  第二条
      死亡した者が生存中に有していた
      自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思は、
      尊重されなければならない。
   2 移植術に使用されるための臓器の提供は、任意にされたものでなければならない。
   3 臓器の移植は、移植術に使用されるための臓器が人道的精神に基づいて提供される
      ものであることにかんがみ、移植術を必要とする者に対して適切に行なわなければ
      ならない。
   4 移植術を必要とする者に係る移植術を受ける機会は、公平に与えられるよう配慮
      されなければならない。

 第一条「目的」で、
 「心臓停止状態または脳死状態の身体から摘出すること、または、
   麻酔術を施された身体から摘出すること」
 を臓器移植法の対象としたため、それに適するように、第二条の第一項を改める。
 また、現行法では、臓器の人格権に関する規定がない。
 そのため、第二条の第二項以下に、臓器の人格権の定義と保護を規定する。

  (基本的理念)
  第二条
      自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思は、
      尊重されなければならない。
   2 移植術に使用されるための臓器の提供は、移植医療に関する充分な情報を与えられ、
      変更の自由を保障され、かつ、いかなる経済的対価も伴わずに、
      自由意志と倫理的判断とに基づき、自発的に、
      任意にされたものでなければならない。
      (2)移植術に使用されるために提供された臓器は、臓器提供希望者が、
        移植医療に協力するために行なった、知的感情的精神的営為の所産として、
        臓器提供者の人格権を有している。
      (3)臓器の人格権は、保護されなければならない。
 

 現行の臓器移植法の第五条「定義」では、対象となる臓器を以下のように定義している。

  (定義)
  第五条
      この法律において「臓器」とは、人の心臓、肺、肝臓、腎臓、
      その他厚生省令で定める内臓及び眼球をいう。

 「その他厚生省令で定める内臓」については、
 「臓器の移植に関する施行規則」(1997年)第一条「内臓の範囲」で、
 「膵臓及び小腸とする」と規定されている。

 また、皮膚、血管、心臓弁、骨等の組織の移植については、
 「『臓器の移植に関する法律』の運用に関する指針(ガイドライン)」の
 第十一条「その他の事項」の「6 組織移植の取扱い」で、以下のように規定している。

  「通常本人又は遺族の承諾を得た上で医療上の行為として行なわれ、医療的見地、
    社会的見地から相当と認められる場合には許容されるものであること」

 以上の規定を受けて、現行のドナーカード(臓器提供意思表示カード)では、
 脳死後、移植の為に提供する臓器として、
 「心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸・その他」が、
 心臓が停止した後、移植の為に提供する臓器として、
 「腎臓・眼球(角膜)・膵臓・その他」が、挙げられている。

 第一条「目的」で、
 「心臓停止状態または脳死状態の身体から摘出すること、または、
   麻酔術を施された身体から摘出すること」
 を臓器移植法の対象としたため、
 現行の臓器移植法の第五条「定義」、および、
 「臓器の移植に関する施行規則」第一条「内臓の範囲」を、
 それらに適するように、改める。

  (定義)
  第五条
      この法律において「臓器」とは、人の心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、
      その他厚生省令で定める、皮膚、血管、心臓弁、骨等の組織、及び眼球をいう。
    2 麻酔術を施された身体からの、移植術に使用されるための臓器の摘出は、
      臓器提供者の健康を損なわず、障害をもたらさず、生存に影響しないものに限る。
 

 現行の臓器移植法の第六条「臓器の摘出」では、以下のように規定している。

  (臓器の摘出)
  第六条
      医師は、死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を
      書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の
      摘出を拒まないとき又は遺族がないときは、この法律に基づき、
      移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)
      から摘出することができる。
  2
    前項に規定する「脳死した者の身体」とは、
    その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって
    脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定されたものの身体をいう。
  3
     臓器の摘出に係る前項の判定は、当該者が第一項に規定する意思の表示に併せて
     前項による判定に従う意思を書面により表示している場合であって、
     その旨の告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき
     又は家族がないときに限り、行うことができる。
  4
     臓器の摘出に係る第二項の判定は、これを的確に行うために必要な知識及び経験を
     有する二人以上の医師(当該判定がなされた場合に当該脳死した者の身体から
     臓器を摘出し、又は当該臓器を使用した移植術を行うこととなる医師を除く。)の
     一般に認められている医学的知見に基づき厚生省令で定めるところにより行う判断
     の一致によって、行なわれるものとする。
  5
     前項の規定により第二項の判定を行った医師は、厚生省令で定めるところにより、
     直ちに、当該判定が的確に行なわれたことを証する書面を作成しなければならない。
  6
     臓器の摘出に係る第二項の判定に基づいて脳死した者の身体から臓器を摘出しよう
     とする医師は、あらかじめ、当該脳死した者の身体に係る前項の書面の交付を
     受けなければならない。

 脳死判定については、「臓器の移植に関する施行規則」(1997年)第二条「判定」で
 規定している。
 また、脳死判定を行なった場合の脳死した人の死亡時刻については、
 「『臓器の移植に関する法律』の運用に関する指針(ガイドライン)」の第八条
 「死亡時刻に関する事項」で、「脳死判定の観察時間経過後の不可逆性の確認時」
 と規定している。

第一条「目的」で、
 「心臓停止状態または脳死状態の身体から摘出すること、または、
   麻酔術を施された身体から摘出すること」
 を臓器移植法の対象としたため、 また、
 現行の臓器移植法の第二条「基本的理念」で、
 臓器の人格権の定義と保護の規定を追加したため、
 第六条「臓器の摘出」を、以下のように改める。

  第六条
     「医師は、臓器提供希望者が、移植医療に関する充分な情報を与えられ、
       変更の自由を保障され、かつ、いかなる経済的対価も伴わずに、
     自由意志と倫理的判断とに基づき、自発的な、任意の、
     書面による意思表示を行った場合にのみ、
     この法律に基づき、移植術に使用されるための臓器を、
     心臓停止状態または脳死状態の身体から、または、
     麻酔術を施された身体から摘出することができる。」
  2
    前項に規定する「脳死状態の身体」とは、
    脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定されたものの身体をいう。
  3
    脳死状態の身体からの、移植術に使用されるための臓器の摘出は、
    集中治療室での治療によって脳以外の生体の機能を長期間維持することが可能な
    患者に、積極的に完全に生命活動の停止をもたらす医療行為であるから、
    摘出に際しては、通常の脳死判定の他に、次の第四項で定める脳死判定を行い、
    脳死を再度確認しなければならない。
  4
    臓器の摘出に係る脳死判定は、これを的確に行うために必要な知識及び経験を
    有する二人以上の医師(当該判定がなされた場合に当該脳死した者の身体から
    臓器を摘出し、又は当該臓器を使用した移植術を行うこととなる医師を除く。)の
    一般に認められている医学的知見に基づき厚生省令で定めるところにより行う判断
    の一致によって、行なわれるものとする。
  5
    前項の規定により脳死判定を行った医師は、厚生省令で定めるところにより、
    直ちに、当該判定が的確に行なわれたことを証する書面を作成しなければならない。
  6
    脳死後および心臓停止後の臓器移植においては、
    臓器提供者の死亡時刻は、臓器の摘出が終わったときとする。
 

 現行の臓器移植法では、第七条「臓器の摘出の制限」で、以下のように規定している。

  (臓器の摘出の制限)
  第七条
      医師は、前条の規定により死体から臓器を摘出しようとする場合において、
      当該死体について刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第229条第一項の
      検視その他の犯罪捜査に関する手続きが行なわれるときは、当該手続きが
      終了した後でなければ、当該死体から臓器を摘出してはならない。

 第一条「目的」で、
  「心臓停止状態または脳死状態の身体から摘出すること、または、
    麻酔術を施された身体から摘出すること」
 を臓器移植法の対象としたため、 変更し、なお、
 脳死後の臓器提供の意思を表示していた人が、
 妊娠中に脳死状態になった場合、および、自殺を図った場合について、
 追加規定を設ける。
 また、未成年者の臓器提供には、家族の同意を必要とする。

  (臓器の摘出の制限)
  第七条
      医師は、前条の規定により心臓停止状態または脳死状態の身体から臓器を摘出
      しようとする場合において、当該者の身体について刑事訴訟法
     (昭和23年法律第131号)第229条第一項の検視その他の犯罪捜査に関する
      手続きが行なわれるときは、当該手続きが終了した後でなければ、
      当該者の身体から臓器を摘出してはならない。
    2
      医師は、前条の規定により心臓停止状態または脳死状態の身体から臓器を摘出
      しようとする場合において、当該者が妊娠している場合、または、自殺企図により、
      脳死状態になった場合、脳死状態の身体から臓器を摘出してはならない。
    3
      前項の規定により、脳死状態の身体からの臓器の摘出をとりやめた場合、当該者の
      生前の意思に同意していた遺族等の許可を得て、心臓停止後に臓器を摘出しても
      よい。
    4
      医師は、前条の規定により心臓停止状態または脳死状態の身体から臓器を摘出
      しようとする場合において、当該者が未成年である場合、当該者の家族の同意を
      得なければならない。
 
 

 心臓死後の臓器提供の意思決定に関する経過措置について
  1979年施行の「角腎法」こと「角膜及び腎臓の移植に関する法律」においては、
  心臓死後の角膜及び腎臓の提供の意思決定について、以下のように規定している。

   第三条(3)医師は、第一項又は前項の規定による死体からの眼球又は腎臓の
               摘出をしようとするときは、あらかじめ、その遺族の書面による
               承諾を受けなければならない。ただし、死亡した者が生存中にそ
               の眼球又は腎臓の摘出について書面による承諾をしており、かつ、
               医師がその旨を遺族に告知し、遺族がその摘出を拒まないとき、
               又は遺族がないときは、この限りでない。

 また、同法の施行に際して出された厚生省次官通知において、
 「遺族がない場合にあっては、本人が生前に眼球又は腎臓の摘出を承諾する旨の
   意思を表明したときのほかは、眼球又は腎臓の摘出を行わないものとする」
 と定めている。
 第三条(3)の規定については、本人が死体からの臓器提供を希望していても、
 遺族が拒否できること、および、本人が提供に反対の意思を有していても、遺族は
 摘出を承諾できると読めること、の2点において、批判があったと言われている。

 現行の臓器移植法「臓器の移植に関する法律」(1997年施行)では、
 附則の第四条で、経過措置として、「角腎法」第三条(3)の規定を温存している。

  第四条
   医師は、当分の間、第六条第一項に規定する場合のほか、
   死亡した者が生存中に眼球又は腎臓を移植術に使用されるために提供する意思を
   書面により表示している場合
   及び当該意思がないことを表示している場合以外の場合であって、
   遺族が当該眼球又は腎臓の摘出について書面により承諾しているときにおいても、
   移植術に使用されるための眼球又は腎臓を、同条第二項の脳死した者の身体以外の
   死体から摘出することができる。

 上記の経過措置は、臓器提供者の生前同意の原則を守るため、また、
 移植のために提供される臓器の人格権の保護のために、廃止すべきである。
 
 

 現行の臓器移植法では、第三条で、
 「移植医療について国民の理解を深めるために必要な処置を講ずる」ことを、
 国及び地方公共団体の責務としている。

  (国及び地方公共団体の責務)
  第三条
      国及び地方公共団体は、移植医療について国民の理解を深めるために必要な処置
      を講ずるよう努めなければならない。

 この条項に則り、次に、終末期医療選択カードと臓器提供意思登録カードを提案する。
 

終末期医療の選択と臓器提供意思の登録
 現行のドナーカードは、臓器提供意思表示カードである。
 これを、終末期医療の選択カードとし、別に、臓器提供意思の登録カードを作る。
 

終末期医療選択カード
1. 私は、脳死後、集中治療室(ICU)で心臓の停止まで「積極的治療」または「消極的治療」を行うことを望みます。
2. 私は、脳死後、集中治療室(ICU)の外の病室で心臓の停止まで治療を行なうことを望みます。
3. 私は、脳死後、移植の為に臓器を提供して、脳死状態を終えることを望みます。
4. 私は、心臓が停止した後、移植の為に臓器を提供します。
5. 私は、臓器を提供しません。

署名年月日
本人署名(自筆)
保証人署名・連絡先(自筆)

連絡先:日本臓器移植ネットワーク
 

  保証人には、本人の家族がなってもよい。
  しかし、家族が本人の選択に反対の場合や、家族が高齢だったり子供だったりして、
  保証人の努めを果たすことがむずかしいとき、また、本人に家族がいないときには、
  家族以外の人を、保証人に選ぶことができる。

  保証人は、家族がいる人にとっても家族がいない人にとっても、
  終末期医療の選択が履行されるのを見届け、
  臓器提供において、本人に代わって、権利を主張する主体となる。
 

  1.または、2.を選択した場合は、登録しなくても有効である。
  終末期医療選択カードは、常時、携帯することが望ましい。
  脳死状態になったとき、終末期医療選択カードが見つからず、
  保証人も見つからなかった場合は、1.または、2.を、
  医療スタッフと、脳死状態の人を看取る人々の、相談のうえで、選択する。
 

  3.「脳死後の臓器提供」、4.「心臓停止後の臓器提供」を選択した場合は、
  登録しないと、無効にする。
  もし、登録しないうちに、本人が脳死状態になったら、1.または、2.を、
  医療スタッフと、脳死状態の人を看取る人々の、相談のうえで、選択する。

  3.「脳死後の臓器提供」、4.「心臓停止後の臓器提供」の選択を登録するためには、
  日本臓器移植ネットワークに連絡し、臓器移植についての説明を受ける。
  説明を受けた結果、臓器提供の選択を取り消して、
  1.または、2.を選択し直してもよい。
  その場合、1.または、2.のほかに、5.も選択する。
  臓器移植についての説明を受けた結果、同意したら、臓器提供の意思を登録する。
  臓器提供を登録した後は、臓器提供意思登録カードを、
  常時、携帯することが望ましい。
  心臓停止状態または脳死状態になったとき、臓器提供意思登録カードが見つからず、
  保証人も見つからなかった場合は、1.または、2.を、
  医療スタッフと、脳死状態の人を看取る人々の、相談のうえで、選択する。
 

臓器提供意思登録カード

1.私は、脳死の判定に従い、脳死後、移植の為に○で囲んだ臓器を提供します。
 心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸・その他(  )

2.私は、心臓が停止した後、移植の為に○で囲んだ臓器を提供します。
 腎臓・眼球(角膜)・膵臓・その他(  )
 

署名年月日
本人署名(自筆)
保証人署名・連絡先(自筆)

連絡先:日本臓器移植ネットワーク
 

終末期医療選択カードの配布
 運転免許証の発行や更新のときに、 成年・未成年の区別なく、免許証と一緒に、
 終末期医療選択カード・地域の救急医療体制と終末期医療と移植医療を説明する
 冊子を配布する。

  運転免許をとらない人に向けて
    病院・診療所・保健所、大学・専門学校・高等学校等の保健管理センターなどに
    終末期医療選択カード・地域の救急医療体制と終末期医療と移植医療を説明する
    冊子を置く。

 地域の救急医療体制と終末期医療と移植医療を説明する冊子には、
 救急指定病院の場所・集中治療室の数・脳低体温療法のできる病院の場所と対象
 となる症例・リハビリテーション施設の場所・最寄りの脳死判定のできる病院の
 場所・最寄りの移植手術のできる病院の場所、希望者に終末期医療についての説明を
 行なう場所等を載せる。

 臓器提供を希望する人は、日本臓器移植ネットワークに連絡し、臓器移植の説明を
 受けに行く。家族等、最期を看取ってもらう可能性のある人と一緒に行ってもよい。
 説明を行なうときには、臓器移植法を説明する冊子を配布する。
 説明を受けた当日に、臓器提供の登録を行なってはならない。
 後日、最終的に臓器提供に同意したら、臓器提供希望者は、保証人になることを
 引き受けてくれる人とともに、臓器提供登録に行く。
 臓器提供希望者は、「試験」を受け、臓器移植に関する最低限必要とされている知識を
 持っていることを確認する。
 保証引き受け人が、保証人の役割についての承諾書を確認し、署名捺印したら、
 臓器提供意思登録カードを発行する。

 臓器提供登録は、法律で期間を決めて、更新する。
 日本臓器移植ネットワークは、臓器提供意思登録者に、
 定期的に、臓器移植についての年次報告を送付する。
 臓器提供意思登録者は、更新時に、意思の変更を告げて、登録を取り消すことができる。
 登録を取り消した人の臓器提供意思表示カードは破棄される。

 臓器提供意思の保証人の役割
  保証人の役割は、
    臓器提供希望者が、心臓停止状態または脳死状態になったとき、
    本人にかわって、臓器提供の意思があることを、医師に告げ、
    臓器提供意思登録カードを確認し、
    臓器提供後、臓器を提供した本人のカルテのコピーや、
    脳死判定やそのほか臓器提供に関するあらゆる書類の
    コピーを請求し、臓器移植を検証する権限を持つ第三者機関や、
    移植に関わった医師以外の医師に検証を依頼する
  ことである。

  臓器提供希望者が、心臓停止状態または脳死状態になったとき、
  臓器提供意思登録カードに署名している保証人が立ち会っていなかったら、
  臓器を摘出してはならない。

 家族への説明
  移植コーディネーターは、移植について、臓器提供意思登録者の家族に説明する。
  家族は、移植コーディネーターによる説明を拒否することはできない。
  しかし、移植コーディネーターは、同意を得るために、
  家族を説得しようとしてはならない。
  家族に説明するときには、あらかじめ家族に断わって、会話を録音し、筆記記録も残す。
  臓器提供意思登録者の保証人に家族以外の人がなっている場合は、
  保証人も家族への説明に同席する。
  記録は、二部コピーをとり、一部は臓器提供意思登録者の保証人に、
  一部は後で第三者の検証機関に提出されるようにする。
  録音も同様に二部ダビングする。
  それらの録音や筆記の道具はコーディネーターが用意する。
  臓器提供後、録音・記録は第三者機関によって検証されなければならない。

 臓器を摘出するとき
  心臓停止後も、脳死判定後も、臓器の摘出を急いではならない。
  家族など、臓器提供意思登録者の最期を看取る人々が、
  医師による、臓器を提供する人の死の判定を、
  事実として受け入れるまで待たなければならない。

  保証人にならなかった、臓器提供者の家族は、臓器提供関係の書類を閲覧できる。

  臓器提供後に検証を依頼することは、保証人の義務とする。

  保証人には、社会的なバックアップが必要である。
  保証人には、臓器提供に関するあらゆるデータを無償で提供し、検証を
  依頼できる機関を紹介したり、医師の情報を提供する。
  検証に要する費用は国が負担し、万一、訴訟を起こすことになったら、それは、
  第三者の検証機関が代理で行い、費用も負担する。そのかわり、訴訟に勝ったら、
  補償金は検証機関に払われ、他の人の訴訟費用や検証の費用に当てる。
 

 家族の同意について
  本人が臓器提供意思登録カードを所持している人が、未成年(20歳未満)の場合、
  心臓停止状態または脳死状態になったとき、保証人以外に家族がいたら、
  家族の同意を得なければ、臓器を摘出することができない。

 成人の証明
  成人が臓器を提供する場合は、臓器提供意思登録カードの他に、
  成年であることを示す、生年月日の記入された身分証明書(運転免許証、
  または、健康保険証など)を携帯している必要がある。
  成年であることを証明するものがなかったら、
  家族の同意を得なければ、臓器を提供することができない。
 

 臓器提供拒否の意思を表示しない自由
  臓器提供拒否の意思を表示する義務はない。
  臓器提供意思登録カードを持っていない人、
  終末期医療選択カードを持っているが何も書いていない人、
  ノンドナーカードを持っている人、
  および、
  終末期医療選択カードに、臓器を提供しない意思を表示している人からは、
  臓器を摘出してはならない。
  また、家族が臓器提供を申し出ても、摘出してはならない。

 他者の意思の尊重
  終末期医療選択カードの携帯や記入を保証人以外に表明する義務はない。

 臓器提供意思の登録を秘密にする自由
  臓器提供意思の登録を保証人以外に表明する義務はない。
 
 

15歳以下の人の終末期医療の選択と臓器提供
 16歳以上の人は、運転免許を取ることができる。
 それゆえ、命に対して重い責任を負うことができるようになったものとみなす。
 15歳以下の人は、運転免許を取ることができない。
 それは、まだ、命に対して重い責任を負うことができないものとみなして、
 16歳以上の人とは、別に、終末期医療と臓器提供について、規定する。

 15歳以下の人への終末期医療選択カードの配布
  少年少女の教育や保育や医療を行なう機関にも終末期医療選択カードを置いてもよい。
  しかし、15歳以下の人が終末期医療選択カードを自由に取ることができないようにする。
  教育や保育や医療を行なう機関は、終末期医療選択カードを置いていることを、
  サービスの対象となる少年少女に広く告げてもよい。
  しかし、終末期医療選択カードを広く配布してはならない。
  必ず、本人の希望が表明されてから、教育や保育や医療に携わる職員が、ひとりひとり、
  終末期医療選択カードを手渡して、そのときに、本人にわかるように、
  終末期医療のことを説明する。
  それは、死の準備教育とは別のもので、死の準備教育を受けている人に対しても、
  受けていない人に対しても、終末期医療について、説明をする。
  そして、地域の救急医療体制と終末期医療と移植医療を説明する冊子に、
  説明した人の署名をして、終末期医療選択カードと一緒に渡すようにする。
  終末期医療選択カードを、死の準備教育の授業で配布してはならない。
  しかし、実物を示して説明するのは構わない。
 

 15歳以下の人の臓器提供意思
  15歳以下の人は、臓器提供意思を登録しない。
  15歳以下の人が、終末期医療選択カードの
  3.「脳死後の臓器提供」、4.「心臓停止後の臓器提供」を選択したら、
  日本臓器移植ネットワークに連絡し、親等の本人の養育に係る保護者と一緒に、
  臓器移植の説明を受けに行く。
  説明を行なうときには、臓器移植法を説明する冊子を、
  親等の本人の養育に係る保護者に渡す。
  また、次に述べる、「チェックカード」を、
  本人と、親等の本人の養育に係る保護者との各々に、渡す。

 15歳以下の人の臓器移植についての認識の確認
  臓器提供については、本人の意思を確認するとともに、特に、脳死後の臓器提供に
  ついては、脳死と心臓死の違いについて、本人が理解していることを確認する必要
  がある。
  脳死と心臓死の違いについての理解を確認する書類として、チェックカードを作る
  ことを提案する。
  チェックカードは、健康保険証と同じぐらいの大きさのカード(二つ折か三つ折)で、
  臓器を提供する意思がある場合、終末期医療選択カードと一緒に、持ち歩くことにする。

チェックカード
  前文をつける。
  前文
「このチェックカードは、
  脳死後の臓器移植についての最低限の知識を確認するためのカードで、
  臓器提供の意思を表示するものではありません。
  このチェックカードのすべての項目にチェックしてあっても、
  臓器提供の意思を表示したことにはなりません。
  臓器を提供する・しないの意思は、終末期医療選択カードに記入してください。
  もし、あなたが、脳死後に臓器を提供する意思を、
  終末期医療選択カードに記入していても、
  このチェックカードのすべての項目に自筆のチェックがついていないと、
  臓器を提供することはできません。
  このチェックカードは、脳死後の臓器移植についての最低限の知識を提供し、
  さらに、臓器移植についてよりよく知るきっかけとするためのものです。
  そのために、最後の項目に、
  『臓器移植についての情報を得られるところ』
  を挙げています。
  どうか、臓器を提供する意思のある人も、ない人も、また、心臓停止後に臓器を
  提供しようとする人も、脳死後に臓器を提供しようとする人も、このカードを
  読んでみてください。臓器を提供しようとする場合は、さらに多くの情報を集めて
  みてください。できるだけ、臓器移植に賛成・反対の両方の考え方を知ってください。
  そして、あなたがもしものとき、あなたを見送ってくださることになる方と、
  話し合ってみてください。」

  以下の項目について確認する(チェックをつける)
    脳死と心臓死との違い
    脳死と植物状態との違い
    脳死状態の持続期間
    脳死判定(臨床的脳死の判定と移植のための脳死の判定)
    外国の脳死判定の例
    判定された状態からの回復の例;実例・回復する機能・件数・確率
    脳死判定のミスについて;実例・件数・確率
    脳死者の数
    臓器移植を待つ人の数
    臓器移植によって救われる病気;
        心臓停止後の臓器提供の場合・脳死後の臓器提供の場合
    不足している臓器;種類・数
    臓器移植の成功例・失敗例の実数と割合
    臓器売買の実態
    臓器移植についての情報を得られるところ
  (日本臓器移植ネットワークの電話番号≪終末期医療選択カードに書いてある≫以外の、
    複数の団体・個人の連絡先やホームページのURL等を示す。
    URLは、日本臓器移植ネットワークのものも含む。
    臓器移植に賛成・反対双方の立場のものを含むようにする。
    さらに、記述したものの他にも情報を得られるところや本などがあることを、
    但し書きで付け加える。)

  以上のすべての項目にチェックしていなければ、脳死と心臓死の違いについて、
  理解していないとみなす。
  どの項目にも、数行ずつ、簡単な説明やデータを記述しておく。
  チェックカードは、臓器移植についての最低限の知識を確認するためのカードで、
  臓器提供の意思を表示するものではない。したがって、すべての項目にチェックして
  あっても、それだけでは、臓器提供の意思を表示したとは認めない。

  このチェックカードのすべての項目にチェックしていたとしても、全部をよく読み、
  よく考えてチェックしたという保証はない。また、チェックカードの内容だけで、
  脳死後の臓器提供について充分な知識を得たとは言えない。
  むしろ、このチェックカードは、脳死後の臓器提供について、最低限持っていて
  ほしい知識を提供し、さらに、臓器移植についてよりよく知るきっかけとするため
  のものである。
  そのために、「臓器移植についての情報を得られるところ」の項目を設けておく。
 

 15歳以下の人の臓器提供意思の保証人
  15歳以下の人が、臓器を提供する場合は、
  終末期医療選択カードに署名する保証人は、
  親等の本人の養育に係る保護者以外の成年の近親者か、
  本人のかかりつけの医師、学校の担任の教師、保育士、そのほかの、
  本人の教育や保育や医療に携わる人でなければならない。
  ただし、地域の救急医療体制と終末期医療と移植医療を説明する冊子に署名した人とは、
  別人でなければならない。
 

 家族の同意について
  3.「脳死後の臓器提供」を選択し、チェックカードのすべてにチェックしている、
  または、4.「心臓停止後の臓器提供」を選択している、15歳以下の人が、
  心臓停止状態または脳死状態になったときは、
  同意する家族が、以下の条件を満たしていなければならない。

  家族が同意を示す場合
   その家族は、親等の本人の養育に係る保護者で、
   自身も終末期医療選択カードを提示する。
   本人が3.「脳死後の臓器提供」を選択している場合は、
   自身もチェックカードを提示する。
   さらに、本人に説明した人の署名入りの、
   地域の救急医療体制と終末期医療と移植医療を説明する冊子も、提示する。

   親等の本人の養育に係る保護者の終末期医療選択カードには、
   何も記入していなくてもよいが、
   チェックカードには、すべての項目にチェックされていなければならない。
   これは、親等の本人の養育に係る保護者自身の臓器移植についての認識を確認する
   ためであり、親等の本人の養育に係る保護者自身の臓器提供の意思を確認するもの
   ではない。

 家族が同意しない場合
   臓器を提供しない。この場合の家族は上記の条件を満たしていなくてもよい。
 
 

子供用の、終末期医療選択カードとチェックカード
  13歳未満の人は、子供用に、漢字にふりがなをふるなど、わかりやすく工夫した、
  終末期医療選択カードとチェックカードを使う。
  子供用のチェックカードでは、大人の事例よりも子供の事例を多く載せるようにする。
  13歳未満の人でも、成人用の終末期医療選択カードとチェックカードを理解できる
  場合がある。
  しかし、臓器を提供する場合には、子供用の終末期医療選択カード
 (とチェックカード)を提示しなければならない。
  子供用の終末期医療選択カードとチェックカードに、年齢の下限は設けないが、
  臓器を提供する場合は、おとなと同じように、自筆記入でなければ、無効とする。
  13歳未満の人の場合でも、終末期医療選択カードとチェックカードを自分で持ち歩く
  ことが望ましいが、親等の本人の養育に係る保護者が本人の代わりに提示してもよい。

  臓器を提供しないと記入した、子供用の終末期医療選択カードを、
  13歳以上の人が持っていたら、それは有効にする。
  臓器を提供すると記入した、子供用の終末期医療選択カードを、
  13歳以上の人が持っていたら、それは無効にする。
  脳死後の臓器提供の場合は、臓器を提供すると記入した、
  成人用の終末期医療選択カードを13歳以上の人が持っていても、
  子供用のチェックカードを持っていたら、終末期医療選択カードを無効にする。
 
 

6歳未満の子供*
  現行の臓器移植法では、脳死判定基準は6歳以上を対象にしている。
  また、2回実施する脳死判定の間隔を6時間としている。
  しかし、新しく、6歳未満を対象とする脳死判定基準を設けることにし、
  3月15日、厚生省の「小児における脳死判定基準に関する研究班」
  (班長・竹内一夫杏林大名誉教授)が最終報告を出した。
  それによると、
    2回実施する判定の間隔を24時間以上とする
    出産予定日から3カ月未満の新生児は除外する
  ということである。
  (http://www.watch.impress.co.jp/jijinews/news/2000031611/news10.htm)
 
 

移植される臓器の人格権
 善意の臓器提供によって移植された臓器の人格権を守るために、
 レシピエントにはドナーの氏名を、
 ドナーの保証人にはレシピエントの氏名を、
 知らせなければならない。
 移植される臓器は、無名の「物」としてではなく、故人の遺志を体言するもの
 として、扱わなければならない。

ドナーの保証人・移植に同意した遺族と、レシピエントとその家族との交流
  ドナーの保証人・移植に同意した遺族に、
  レシピエントの氏名・年齢・性別・移植の予後についての情報を、
  移植コーディネーターが提供する。

  レシピエント、
  レシピエントが幼くて、移植手術を受ける意思を自分で表明していなかった場合は、
  レシピエントの親等の本人の養育に係る保護者に、
  ドナーの氏名・年齢・性別・死亡の原因となった疾患・終末期医療についての情報を、
  移植コーディネーターが提供する。

  また、
  ドナー本人の臓器提供についての考えが、終末期医療選択カード以外の文書にも
  表明されている場合、
  レシピエント、
  レシピエントが幼くて、移植手術を受ける意思を自分で表明していなかった場合は、
  レシピエントの親等の本人の養育に係る保護者に、
  移植コーディネーターが伝える。
 

  住所・電話番号・メールアドレスなど、連絡先に関する情報
    ドナーの保証人・移植に同意した遺族が、レシピエントとの連絡を望んだ場合、
    移植コーディネーターが、連絡先に関する情報を提供する。
    移植コーディネーターは、
    レシピエント、
    レシピエントが幼くて、移植手術を受ける意思を自分で表明していなかった場合は、
    レシピエントの親等の本人の養育に係る保護者に、
    ドナーの保証人・移植に同意した遺族に連絡先を教えたことを伝える。

    レシピエント、
    レシピエントが幼くて、移植手術を受ける意思を自分で表明していなかった場合は、
    レシピエントの親等の本人の養育に係る保護者が、
    ドナーの保証人・移植に同意した遺族との連絡を望んだ場合、
    移植コーディネーターが、連絡先に関する情報を提供する。
    移植コーディネーターは、
    ドナーの保証人・移植に同意した遺族に、
    レシピエント、
    レシピエントが幼くて、移植手術を受ける意思を自分で表明していなかった場合は、
    レシピエントの親等の本人の養育に係る保護者に連絡先を教えたことを伝える。
 

  移植コーディネーターは、
    ドナーの保証人・移植に同意した遺族と、レシピエント、
    レシピエントが幼くて、移植手術を受ける意思を自分で表明していなかった場合は、
    レシピエントの親等の本人の養育に係る保護者が、
    面会や文通などの交流を行えるように、援助する。

  移植コーディネーターは、
    ドナーの保証人・移植に同意した遺族、レシピエント、
    レシピエントが幼くて、移植手術を受ける意思を自分で表明していなかった場合は、
    レシピエントの親等の本人の養育に係る保護者
    との交流について、
    把握しえたすべての情報を記録する。
    しかし、
    ドナーの保証人・移植に同意した遺族と、
    レシピエント、
    レシピエントが幼くて、移植手術を受ける意思を自分で表明していなかった場合は、
    レシピエントの親等の本人の養育に係る保護者との交流を
    管理しようとしてはならない。
 

  ドナーの保証人・遺族、レシピエント、
  レシピエントが幼くて、移植手術を受ける意思を自分で表明していなかった場合は、
  レシピエントの親等の本人の養育に係る保護者が、
  移植コーディネーターの活動に不適切なものがあると判断した場合は、
  臓器移植を検証する権限を持つ第三者機関に訴えることができる。

  第三者機関が訴えを受理したら、
  移植コーディネーターは、
  ドナーの保証人・遺族、レシピエント、
  レシピエントが幼くて、移植手術を受ける意思を自分で表明していなかった場合は、
  レシピエントの親等の本人の養育に係る保護者についての、
  すべての記録のコピーを、
  第三者機関と、ドナーの保証人と、レシピエント、
  レシピエントが幼くて、移植手術を受ける意思を自分で表明していなかった場合は、
  レシピエントの親等の本人の養育に係る保護者に、
  提供する。
 
 

臓器移植関連の情報の公開
  臓器移植を検証する権限を持つ第三者機関・臓器移植ネットワークは、
  毎年、会計報告を公開し、誰でも自由に閲覧・複写できるようにする。

  臓器移植に関する医学的情報は、
    ドナーとその保証人・遺族、レシピエントとその家族のプライヴァシーを
    侵害しないもののみ、公開される。

   医学的情報以外の、ドナーに関する情報は、
   ドナーが前もって公開を希望していたものがあれば、公開される。
   ドナーの遺族に関する情報は、当人が許可を与えたもののみ、公開される。
   医学的情報以外の、レシピエントに関する情報は、当人が許可を与えたもののみ、
   公開される。
   レシピエントが幼くて自分で諾否を答えられない場合は、
   レシピエントの親等の本人の養育に係る保護者が諾否の返答をする。
 
 
 
 

 
 

* 参考
  98/07/03  ヒト組織を用いた研究開発の在り方専門委員会報告書
  http://www.mhw.go.jp/shingi/s9807/txt/s0703-2.txt

 「手術等で摘出されたヒト組織を用いた研究開発の在り方について」
  ”医薬品の研究開発を中心に”
  http://www.mhw.go.jp/shingi/s9812/s1216-2_10.html

 「ヒト組織の移植等への利用のあり方について(案)」に対する意見
  ぬで島次郎
  http://member.nifty.ne.jp/lifestudies/nude.htm

  スウェーデン臓器移植法
  http://www.senshu-u.ac.jp/~thj0090/rex16.htm

  ドイツの臓器の提供、摘出及び移植に関する法律
  http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/d110.htm

以上



2000.06.20改訂のおもな変更・追加等

文章による説明のあとに、現行の臓器移植法との逐条的変更の説明を
つけました。

「臓器移植と臓器提供者の生前同意」
「移植のために提供される臓器の人格権」
について、文章による説明と、逐条的説明とをつけました。

「子供の終末期医療と臓器移植」
で、乳幼児の臓器提供について、文章による説明では書きましたが、
法律的扱いの部分は、書かず、前回までの「6歳未満の人」についての
項目も省きました。
この件については、後に、また、復活させるかもしれません。
しかし、非常にむずかしいので、一旦、引っ込めて、考え直します。

前回での、ドナーカード(&ターミナルケアカード)とチェックカードに加えて、
臓器提供意思登録カードを提案しました。これは、メールでいただいた、
臓器提供意思を運転免許と同じ制度で登録しよう、というアイディアを
生かしたものです。

16歳以上(運転免許が取れる年齢)は、臓器提供意思登録カードを使うことにし、
15歳以下は、ドナーカード(&ターミナルケアカード)とチェックカードを使う
ことにしました。