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あとがき  

 書き始めたのは、いまから一〇年前のことだ。こんなに時間がかかるとは思わなかった。夏休み、冬休み、春休みを何度もつぎ込んだが、それでもなかなか完成しなかった。取り扱う内容の広大さと、重さに打ちひしがれて、吐きそうになったこともたびたびあった。限界点での執筆を続けてきたと思う。

 この本は、荒削りの未完成品である。生命倫理を素材として、生命学へと突き抜けようとする情念のエネルギーだけで書かれている。あちこちの壁が破れており、思索が中途でとぎれている箇所もある。これは、この地点を通過して、さらに遠くへと飛翔しようとする魂たちのための作品だ。私自身もそのようなものとしてこの本を使用するから、みなさんも、そうやって読んでいただけるとうれしい。現時点での、生命学の到達点がここにある。

 この本を読めば、生命学のアウトラインがわかるはずだ。この本は、生命倫理についての入門書として読むこともできるだろう。私は、本書で詰めることのできなかった様々な論点を、あと一〇年かけて考え抜いてゆくつもりだ。生命学に興味をいだいてくれた読者が、これからどうしてゆくのか、私はとても知りたい。生命学は、それを主体的に営もうとするすべての者に開かれている。人文科学、社会科学、生命科学の専門領域に息苦しさを感じている者たちよ、生命学のほうへ来てみないか。

 一九九六年に出版された『宗教なき時代を生きるために』(法藏館)が、最後のまとまった単著だったから、まるまる五年間、一般読者の目から遠ざかっていたことになる。その期間、私は、本書と、連載『無痛文明論』の執筆に集中していた。この二つの作品は、双生児の関係にある。『無痛文明論』の雑誌連載分は、私のホームページで全文を読むことができる。それを根本的に書き直し、長大な完結編を付加した単行本を、いずれ出版する予定である。

 この本は、私の第一作『生命学への招待』(勁草書房)の全面的な書き直しという性格をも持っている。あのときよりも、生命学のイメージはかなりクリアーになった。「生命学」の英訳は、"life studies"だ。英語世界には、いまのところそういう学問は存在していない。今後の、諸外国の人々との対話も楽しみだ。

 ・・・(中略)・・・

 本書完成によって、何か、吹っ切れた感じがする。ようやく、自分の書きたいことを、自由に書けるようになるのではないかという予感がある。何ひとつ持たぬまま、真夏の白い空へと、吸い上げられるように飛行してみたい。

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二〇〇一年八月三一日 蝉の鳴く高圧線を眺めながら 森岡正博

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