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『TRANSVIEW』no.1 2001年8月20日 11〜12頁
ネットで個人全集の試み
森岡正博
書き手の立場から言えば、自分の本が絶版になるのがいちばん困る。読者の方から、あの本はどうすれば手にはいるのですかとメールをいただくことがたびたびあるのだが、「お近くの図書館で探してください」としか答えられない。こんなん、おかしいやん。
まあ、あと三〇年くらいして運良く「巨匠」になってしまったら、どっかの出版社が全集を出してくれるかもしれない。そしたら、そのときには、絶版になっていた本も再刊行できる。でも、「巨匠」になれなかったら、やっぱり、おしまいじゃん。
このシステム、なんか変じゃございません?
というわけで、自分で個人全集を作っちゃえってことになったわけなのです。もちろん自費出版とかじゃない。自分で出版社を立ち上げて、そこから刊行しちゃうのです。いまやインターネットの時代。だから、ネット上で電子出版社を立ち上げて、自分の作品を全部電子化してアップして、『森岡正博全集』にしちゃえってことです。
思い立ったらすぐやる課。さっそくウェブデザイナーでもある友人と組んで、電子出版社「kinokopress.com」を立ち上げました。行ってみると分かりますが、いまのところ、私が編集長をしている学術雑誌『現代文明学研究』ネット版と、『森岡正博全集』が、主なコンテンツとなっている。
全集では、私のエッセイ数本と、私の著作二冊が、いまのところ電子ファイルで公開されている。これはPDFファイルという形式のもので、頁数を確定することができるという優れものだ。絶版となった『自分と向き合う「知」の方法』(PHP)と、雑誌『仏教』に長期連載されていた『引き裂かれた生命』(法藏館)の二冊を、森岡全集版として作成し、公開した。全集版の頁数は、単行本版とは異なっているが、これからはこの全集版が定本となるのだ。
それだけじゃなくって、わが「kinokopress.com」では、このPDF形式の電子ファイルを販売する。この二冊はインターネットの画面上でも全文が読めるようになっているのだが、本格的に紙に印刷して読みたい人や、引用のために頁数を確認したい人は、PDFファイルを買うことができるようになっている。
電子ファイルを買いたい人はどうすればいいのかというと、まず、買いたい本のタイトルを「kinokopress.com」にメールで知らせる。そしたら、すぐに添付ファイルでPDFが送られてくる。あとは、指定されたパスワードを入力して文書を開き、自分のプリンタで全文を印刷すればよい。それから一週間以内に、指定の口座に代金八〇〇円を振り込む。とても簡単なのです。
でも、ほんとに、電子ファイルを買ってくれる人なんているのかなあ、という不安におびえながら、今年の三月に開店。コンスタントな訪問者があり、買ってくれる人も予想以上にいる。売り上げは「kinokopress.com」の収入となり、私は印税を受け取る仕組み。画期的なのは、資本金がゼロに近いということ、在庫がないから赤字もないということ、著者みずからが配布しているから中間搾取がないということ。こうなったら、もう出版社なんか必要なくなるかもね。もっと仲間が増えて、読者を相互交流させていけば、すごいことになるかもね。(*http://www.kinokopress.com)