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共同配信(『京都新聞』2001年4月22日など)
書評:井上有一+アラン・ドレグソン編『ディープ・エコロジー』昭和堂
森岡正博


 環境問題を考えるときのひとつの発想として、「私が変われば世界は変わる」という思想がある。これをもっと強く言い直せば、「この私の生き方や、感受性が変わらない限り、環境問題はけっして解決しない」ということになるだろうか。自然に向かうときの人間の内面性。何を幸福と感じ、何を豊かだと考えるのか。これらが、実は、環境問題の根本にあるのだ、ということを一九七〇年代初頭に言い放ったのが、ノルウェーの哲学者、アルネ・ネスであった。彼が提唱した自然の哲学のことを、ディープ・エコロジーと呼ぶ。表面的な自然保護というのではなくて、真に深い意味合いをもったエコロジー思想というわけだ。
 いま必要なのは、自然に対する人間のかかわり方それ自体を根本から変えること、すなわち、人間の存在の仕方そのものを大転換することだとネスは考えた。
 本書の編者である井上有一は、ディープ・エコロジーの思想を、以下のように簡潔にまとめている。まず、われわれの自然環境がカタストロフィに陥ることなく、持続的であるようにすること。次に、貧富の差や南北格差が是正され、社会的な公正が保たれるようにすること。第三に、われわれ自身が豊かな生を生きられるようにすること。
 とくに第三点のことを、井上は「存在の豊かさ」と呼んでいるが、まさにこの点を強調するのが、ディープ・エコロジーの大きな特徴である。ネスは、ヨーロッパ思想や、アジア思想を深く学んで、人間と自然が通底しているとする考え方を吸収した。ディープ・エコロジーは、一九七〇年代から八〇年代にかけて、主に北米を中心に支持者を広げてゆくことになる。
 本書は、ディープ・エコロジー思想の主要論文を集大成したものだ。フェミニズムやエコフォレストリーなどとの関連もきちんと押さえられている。ディープ・エコロジーの展開を、一望のもとに見渡すことのできる好著である。

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