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作成:森岡正博 
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意識通信

 

森岡正博『脳死の人』法藏館、初版1989年、決定版2000年

269〜271頁 (傍点・文字飾りは省略 後ほど公開される縦書きのPDF版では完全なレイアウトが見られます)

 

決定版のあとがき

 『脳死の人』が、このような形で、ふたたび読者の手に届くようになった。これは私の二冊目の書物なのだが、おそらく私がいままで書いたもののなかで、もっとも「よい本」だと思うし、私はこういう本をもう二度と書くことができないだろう。一〇年以上前に書かれたものなのだが、いま読み返してみても、この本で指摘したことは、まったく色あせていない。初版の「おわりに」のなかで、「本書は、一九八九年の時点での、世界の生命倫理研究の最先端に位置するものであるという自信を私はもっています」と書いている。もちろんこれは、まだ未熟であった私の若さが書かせた文章だ。
  しかしその後の世界の脳死の生命倫理研究の流れは、ここにきて、驚くべきことに、「脳死の人」で私が提言したような方向へと論点をシフトさせつつある。脳死は関係性の問題であり、家族による死の受容のプロセスが重要だという論点が、ようやく彼らの議論のなかに現われはじめたのである。それにともなって、日本の脳死論議に注目する海外の研究者も出てきている。彼らの目からは、日本のほうが、脳死と臓器移植について、緻密できめ細やかな議論をしてきたように見えるのである。おそらく、今後、本書をはじめとする日本の脳死論が、各国語に翻訳されて、海外で読まれていくことだろう。日本の生命倫理の議論が、海外の人々にも共有されていくとすれば、それはすばらしいことだと思う。
  一九九八年から、私は「生命学ホームページ」を立ち上げて、自分の書いた文章を全文掲載する試みを続けてきた。掲示板などを通して、関心を同じくする者たちの交流の場もできはじめている。決定版の増補に収録したような、臓器移植法改正案に対する反対運動も、二〇〇〇年二月より、「生命学ホームページ」にて開始した。改正案を発表した町田朔氏の論文や、それに対する反論・対案などを掲載し、公開の場所での討論が始まっている。生命倫理に関する立法過程の議論に、はじめてインターネットが市民の側から本格的に関与したのである。関心ある方々は、ぜひ訪れてみてほしい。
  二〇〇〇年から、英語版ホームページInternational Network for Life Studies を開始した。英語を利用して、関心を同じくする海外の人々とも交流を深めようと考えている。私の書いた文章の英訳を、このホームページに掲載していく予定である。『脳死の人』の英訳もすでに開始している。おそらく二一世紀の生命倫理や生命学の議論は、インターネット上でもっとも活発になされることになるだろうし、私の作品発表の場所もまた、書籍から、ホームページへと徐々に移行していくことだろう。
  それにもかかわらず、『脳死の人』増補決定版の出版を決意してくださった法蔵館には、深く感謝している。なお、現在執筆中の本格的文明論である「無痛文明論」も、いずれ法蔵館より出版される予定である。

   生命学ホームページ(日本語)
      http://member.nifty.ne.jp/lifestudies/index.htm
   International Network for Life Studies (English)
      http://homepagel.nifty.com/lifestudies/index.html

 二〇〇〇年二月一日  大阪市にて都会の騒音を聞きながら        森岡正博

 

入力:だむす