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作成:森岡正博 
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「要綱中間試案」に関する意見

 


法務省民事局参事官室 御中 minji35@moj.go.jp

法制審議会 生殖補助医療関連親子法制部会
「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要綱中間試案」に関する意見

東京都町田市 ぬで島次郎(ぬでは木偏に勝) 42歳 男性 研究員
東京都渋谷区 光石忠敬 60歳 男性 弁護士
東京都品川区 斉尾千絵子 44歳 女性 医学雑誌編集

意 見
(1)要綱中間試案第1、第2において、提供された卵子または精子に、それに由来する胚を含むとしている部分を削除し、提供された胚による生殖補助医療により出生した子の親子関係について、新たに「第4」項を起こして規定するよう求める。
 規定の内容を決める際には、特別養子制度を参考とするよう求める。

(理 由)
 中間試案の補足説明「本試案の内容説明」冒頭の「(前注1)」の「1」では、他の夫婦の配偶子から形成された胚について、その由来する精子の提供者との父子関係と卵子の提供者との母子関係に分割・還元して扱い、「独立して取り上げることはしない」としている(補足説明5頁)。
 これは、人の胚を独自の存在と認めず、独立した扱いの必要を認めないという重大な政策上の価値判断を含む決定である。
 しかし、生物学的にいって胚は元の配偶子とは別個の独自の有機体であって、その存在をもとの配偶子に還元することはできない。
 また倫理的には人の胚は、首相の諮問機関である科学技術会議の報告書によって、「人の生命の萌芽としての意味を持つ」とされ、独立した扱いが求められている(同会議生命倫理委員会ヒト胚研究小委員会「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方」平成12年月6日、8頁)。
 この政府の基本姿勢を受けて、本試案が基にしている厚生科学審議会生殖補助医療部会「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」においては、提供される胚について、提供される精子・卵子とは別個に独立した扱いをしている。具体的には、「子の福祉のために安定した養育のための環境整備が十分になされること」という条件が課されている(同報告書III1(2)4))、一件毎に公的管理運営機関による審査を受け認められて初めて実施できる(同III6(3))という、精子・卵子の提供にはない独自の、より厳しい規制が課されている。
 厚生科学審議会では、胚の提供をそもそも認めない日本産科婦人科学会や日本弁護士連合会などの意見を配慮し、胚の提供による生殖補助医療については、精子や卵子の提供とは一線を画し、より慎重な構えを採用するに至ったもので、我々もその基本線は支持する。
 今回の要綱中間試案は、こうした従来の政府の基本方針および厚生労働省による行為規制規範の基本設計を逸脱したものである。諸外国の法制政策上でも、胚を独自の存在と認めず、その扱いを元の配偶子の扱いに還元するような方針を採る国は、我々の知る限りない。そのように国内外のこれまでの生命倫理政策上の基本姿勢を覆す決定を行うには、それに相応しい論議と根拠の提示が必要であるが、今回の試案と補足説明にはそれが示されていない。
 以上の理由から、意見本文に述べたような修正を行わなければ、本要綱中間試案は認めることができないと考える次第である。


(2)要綱中間試案に新たに「第5」項を設け、「代理懐胎(借り腹、代理母)契約は公序良俗に反し無効である。」旨を明記するよう求める。

(理 由)
 要綱中間試案の補足説明の「第4」では、代理懐胎を特に取り上げ、これを禁止することを前提に、民法上も同契約は無効であるが、その点につき特段の法的規律はしないとしている。しかしそれでは、問題事例が起こるたびに個別に民法第90条による無効の判断を裁判所に委ねることになり、当事者間および一般社会に無用の混乱と不安を引き起こすことになる。代理懐胎に対する刑罰規定の内容(対象者、法定刑など)はまだ明らかでなく、その有効性については議論があるところである。代理懐胎は法で禁じるという政策を貫徹するためには、代理懐胎契約は民法上も認められないことを法文に明記すべきである。


(3)要綱中間試案「第1」の「(注)」で、このルールは行為規制の「制度枠組み」で認められないものおよびその外で行われるものも対象に含むとしている点を削除するよう求める。

(理 由)
 生殖補助医療部会報告書の示す制度枠組みでは、代理懐胎も独身女性が提供精子を受けることも認めていない。そうであるのに、代理懐胎の依頼者は母になれないのに対して、提供精子で子を産んだ母は母になれる、というのは矛盾している。
 制度枠組みで認めていないことを認めるかのような内容を親子関係の要綱の中で決めることは許されないと考える。上記注記は削除し、必要であればこの点の規定の仕方を再度検討する必要があると考える。最低限、本試案が「含む」としたのは、制度枠組みで認めない行為を認めるとする趣旨ではなく、専ら子の保護のためのみであることが明白に保障されるような規律の仕方を求める。
 さらに付け加えれば、要綱中間試案は卵子と胚の第三者からの提供による生殖補助医療が行われることを前提にしている。我々は胚の提供による生殖補助医療を容認するものではないが、少なくとも、厚生科学審議会生殖補助医療部会「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」の示す制度整備が行われるまでは、卵子・胚の提供による生殖補助医療の実施は認められない。その旨、本要綱案でも明言すべきである。


以上

2003年8月HP掲載