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作成:森岡正博 
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エッセイ

共同通信配信 『京都新聞』2003年8月1日など多数
氾濫する少女への性幻想

メディアで堂々と消費  「根拠なき妄想」に危ぐ
森岡正博

このエッセイは、完全に書き直して、『感じない男』(ちくま新書 2005)に収録しましたので、そちらをご覧ください。

 

 赤坂で小学生の少女四人が監禁され、容疑者の男性が自殺するという事件が起きた。報道によれば、渋谷では、道を歩く中高生たちに対して、性を売る誘いがひんぱんに仕掛けられ、いまや魔の手は小学生にまで伸びているというのである。路上でインタビューされた少女たちが、性の誘いを受けた経験について屈託なく答えるシーンも、放映された。事件そのものについては、慎重に今後の経緯を見守るしかない。ここで、このような事件が起きた背景について、常日ごろ感じていることを書いてみたい。

▽モーニング娘。

 買売春に巻き込まれる少女たちの年齢が低下してきたと言われる。これに関連して、私が注目しているのは、国民的アイドルグループである「モーニング娘。」のメンバーの低年齢化である。二〇〇〇年には、十二歳のメンバーが二人加入し、一気に人気がブレイクした。また今年、矢口真里と小学生五名による「ジックス」というグループが、CDデビューする。
 男たちがアイドルたちに透かし見ているのは、砂糖菓子の雰囲気に包まれて巧妙に提供される、年若き少女たちの「性」にほかならない。
 たとえば、同じグループの別ユニットが出演するミュージックビデオで、彼女たちが順番にミルクを飲まされて、瓶に入った白い液体をいやいや口に含むシーンがあったが、ここで暗示されているものは何であろうか。「元気な女の子の笑いと涙の成長記」という建前の裏で巧妙に仕掛けられるこのようなサブリミナルな「性幻想」が、いまのテレビにはあふれているのだ。小学生をも含む彼女たちに向けられた、濃密な「性の視線」がそこにある。またインターネットには、彼女たちを題材にしたポルノ的な絵や文章が氾濫(はんらん)している。

▽ロリコン

 そのようなメディアからのシャワーを継続的に浴びせられた男たちは、年若き少女たちへの「性幻想」を、いや応なくかき立てられることになるだろう。少女の性への執着は「ロリコン」と呼ばれ、ひ弱き男が力無き少女を支配する性欲だと考えられているが、その解答だけではもはや不十分だ。渋谷でも、少女を買うのは、むしろ地位も収入もある勝ち組の男たちであるという。
 ロリコンを支えているのは、初潮をはじめたばかりの初々しい女性と肉体的につながることによって、このつまらない社会では味わうことのできない超常的な興奮と癒やしを得られるのではないか、という「根拠なき妄想」である。アイドル産業は、この根拠なき妄想を、少女タレントという商品の裏側に巧妙にすべりこませ、消費行動をあおることに成功した。
 男たちのセクシュアリティーを構築する文化環境の中に、子どもへと向かう「性幻想」が仕掛けられ、メディアで堂々と消費されているかぎり、冒頭のような犯罪が減ることは決してないであろう。