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作成:森岡正博 
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コラム

『京都新聞』2002年3月16日

テクノロジーの「自爆」
森岡正博

 同時多発テロによって、米国の一般市民が三千人以上も殺された。これは許せないことだ。しかし、その後の米国主導によるアフガン空爆によって、それを上回るアフガニスタンの一般市民が殺された。米国人の多くは、これを「仕方のないこと」と考えている。しかし、米国によるこの行為も、とうてい許し難いことだ。中東や北アイルランドでも同じことが起きている。
 なぜ、このようなことが繰り返されるのだろう。戦争の実態を見るにつけ、人類は、かつて「野蛮」だったころから一歩も進歩していないように見える。目には目をの復讐劇を国を挙げて行なう点においては、米国もまた野蛮国のひとつでしかない。それに追随する日本もまた、その範疇なのだろう。
 しかし、進歩したものもある。それは、殺戮の方法だ。まず、テロリストたちはインターネットと航空機を利用した。この両者はともに、米国が生みだした最良のマシンである。テロリストは、米国が生みだしたテクノロジーを乗っ取って、米国を攻撃したのだ。
 二機の航空機がWTCビルに追突する映像を繰り返し見ていて、私は何か不思議な気分に襲われた。なぜなら、そこに現出していたのは、航空機という米国の生みだしたテクノロジーの塊が、WTCビルという米国の象徴へと「自爆」する姿だったからだ。すなわち、私の目には、米国の「自殺」のように見えたのであった。わずか数人のテロリストが、システムの一隅を奪うという、それだけのことによって、米国を自殺に導いたのだと。
 それに対抗する米国もまた、新たなハイテクの戦いを挑んだのだった。様々な巨大爆弾による一斉殺戮。自分たちは、遠隔から攻撃しているので、被害はほとんどない。無線操縦による偵察機で、タリバン兵を攻撃することも試みた。コソボ空爆から引き継がれたこの作戦は、さらに洗練されたかのように見える。
 米国の作戦のその先にあるものは、もはや明確だと思われる。将来の戦争においては、米国は、遠隔地からのロボット攻撃によって、敵兵を皆殺しにするはずである。それを可能にするロボット技術と、通信制御技術と、バーチャルリアリティ技術は、すでに存在している。
 想像してみてほしい。飛行機から投入された高速で動く多数の戦争型無人ロボットが、暗闇の中で人体感知センサーを使いながら、敵兵をマシンガンで皆殺しにして前進する情景を。操る米国側は、ゲームと同じで、誰も傷つかない。このような怪物を、果たして私たちは飼い慣らすことができるのだろうか。